ニケ像と芸術家入門の件

昨年の秋、まだ暑さの残る頃、「何かを作ろう」と喜安さんが言い、私たち劇団員はよく分からないまま集まりました。
比較的短い話し合いの結果、「それなりに大きな物を作ろう」となり、「サモトラケのニケ」という有名な彫刻作品を模して作る事になりました。材料はダンボールや新聞雑誌、木の切れ端、要らない布などの廃材です。
材料を数日で集め、場所を手配し、私たちは廃材と道具を持って集合しました。電車で。車に乗り合わせて。それぞれの方法で。早朝の謎の高揚感。劇団員と稽古や本番以外でこんな風に会うのはなかなか無いことです。飲み会すらなかなか実現しない我々です。
設計図はありません。あるのはネット検索したスマホの中のニケ像の写真だけ。
どこに着地するか全く分からないまま手探りで始めたニケ像づくりですが、試行錯誤を繰り返すうちに出来上がったそれは思ったよりもだいぶ素敵な仕上がりで、その空間は予想外の達成感に包まれました。休憩中に食べようとそれぞれが買ったお菓子は未開封のままそこにありました。
喜安さんから声をかけられた時、廃材を集めている時、朝家を出た時、作り始めた時、どの瞬間も子供の頃の遠足みたいに楽しかったけど、想像はしていませんでした。行きあたりばったりの先に、まさかこんなものが出来上がるなんて。
なぜニケ像だったのか、そもそもなぜ作ったのか、果たしてこれが演劇とどう関係があるのか、私は全く上手く説明することができないし分からないのですが、「芸術家入門の件」の初日が開ける時には、この体験がどこかに繋がって形になっているでしょうか。確かな理由もなく、何かができあがる不思議。

演劇の特徴であり面白いところは、初日の幕が開けるまで(もしかしたら千秋楽の幕が閉じるまで)、いったいどういう公演になるかが分からないところだと私は思います。
「芸術家入門の件」は、これから始まります。私たちの真面目な部分も、いきあたりばったりな部分も大いに発揮して、さらに強力なゲストやスタッフの方々のお力を借りて、
「まさかこんなものが出来上がるなんて。」
と初日に言いたいです。
(たとえそこに、芸術はないとしても!)

永井

その時の様子↓


Sachin Note

140字では足りない時の場所です

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